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すきなものは「すき」と伝えたい

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お腹の空腹が絶頂を迎えるのと同時に、2時間にもおよぶ免許更新の講習が終わりを告げた。

髪をひと結びにし、3年前よりも顔まわりがさっぱりした新しい写真が載った免許証を受け取り、講義室を出る。

もうすでに、お腹はぺこぺこ。
免許センターまでの道のりにあったイタリアンのお店にでも行こうと決めて、建物を後にする。

地元よりも幾分か気温が低く、肩を怒らせながら歩みを進める。服装選びに失敗した、なんて思ってもあとの祭だ。

てくてく、てくてく。

最初の横断歩道に着いたあたりで、近くに住む高校の友人にでも声を掛けようかと思いつく。
SNSを確認すると実家の犬と戯れてる写真を上げている。どうやら帰省しているようで、誘う前から断られてしまった気分だ。

でも、途中駅で合流するのもありかもしれない。なんなら、帰宅途中にある実家の最寄駅まで行くのも良い。
そんな考えが頭をよぎるが、なんといってもお腹が空いている。

仕方ない。
1人でランチでもしよう。頭の中をさっと切り替え、イタリアンのお店へと向かう。

5分ばかり歩いたところで、例のお店が見えてきた。
窓が全面的に開かれている様子は、コロナウイルスの感染予防対策のためか?

着実に近づきながら、頭で考えていると、なにかおかしい。
お客さんが全くいないのだ。
そわそわしながら、お店の前に到着。店内から声はするのだが、やはり1人たりとも客席に座っていない。

どうしたことだ、と急ぎ入り口を確認するとcloseの文字が。外に出ているメニュー表を見たら、17時開店と書いてある。
とてもじゃないが、はらぺこな私にとって5時間は待てるわけがなかった。

持ち上がっていた肩は徐々に下がっていき、とぼとぼ駅へと向かう。気分はすでに、ちょっとお高めなランチ。牛丼屋の気持ちに切り替えることができない。

滑り込んできた電車に乗り込み、どこで食事をしようかと考え込む。乗り換え駅ならたくさんお店はあるのだが、日曜日のお昼時ともなれば行列が絶えない。

人混みや行列が大層苦手なので、候補から外れる。では、どうしよう….

電車に揺られながら考えること、数分。
そういえばよく行くバーの2号店がカフェタイムも営業していた。

その時間帯の利用はまだない。しかも、コロナウイルスが蔓延してからは、バータイムすら行っていないのが現状だ。

私1人では微々たるものだが、お店の経営を助けたい気持ちも大いにある。
大好きなバー、いつも愉快な会話をしてくれるバーテンさんに会えなくなるの嫌だ。
お金は落とせるときに、落とすべきである。

駅に着くや否や、人混みを避けるようにバーへと向かう。脇目も振らずに。

「いらっしゃいませ」
馴染みのバーテンさんが挨拶で出迎えてくれる。カウンターに座り、メニューを受け取る。
いつも通りの行為に、ホッとする自分がいた。

まだイタリアンの余韻が残っていたので、マルゲリータと赤ワインを注文。

赤ワインを飲みながら、ピザが焼き上がるのを待っていればやっと登場!
とろ〜りと伸びるチーズに、加熱したことで甘みと酸味が口の中で溢れるトマト。さらに、ちょっと苦味のあるバジルが乗っていて、バランスが絶妙だ。

ワインとの相性もとても良かった。

食べ終えたあとは少しでもお金を落としたい、という気持ちと美味しいお酒や楽しい会話のおかげか、グラスをどんどん傾けては、次のお酒を注文。

ルシアンにラムのロック。

このバーに来ると「スモーキーなものは苦手」と伝えた上でおすすめなウイスキーの銘柄を出してもらうが、「今まで出したウイスキーの種類的に、ラムのロックが好きだと思いますよ」との誘い文句によりラムにしたのだ。

普段は飲まないラムをドキドキしなが飲むと、ほんのり甘さが広がり一瞬で虜に。

どのお酒も、どこよりも美味しい。そして、今までに好きと伝えたウイスキーの種類を覚えていて、自分にあったお酒を出してくれたことがとても嬉しい。

「私、ここで飲むお酒が1番好きなんですよ」
会話の流れで伝えれば、人好きしそうな表情がくしゃりとした笑顔に変わる。

「嬉しいこと言ってくれるじゃないですか」と、嬉しそうに笑う顔を見て、つられて笑ってしまう。

好きなものには好きと伝えたいし、ずっと続いてほしいお店にはお金を落とす。
自粛が続く中で忘れていた気持ちを思い出した。

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