暮らすようにパリを旅をしよう

スポンサーリンク

「10月からパリに語学留学へ行くことにしたんだよね」

名古屋にある小洒落たカフェバーでワインを傾けながら、久しぶりに再開した知人が私に伝えた。英語が堪能である彼女は、次はフランス語を習得するため渡仏するらしい。

会社を辞めるタイミングでパリにでも旅行へ行こうと考えていた私は、「よかったら現地で会わない?」と提案。ひとり旅をするつもりだったけれども、言葉が通じない土地でひたすら観光地を巡るのはいささか寂しく、神奈川と岐阜、遠く離れていて滅多に会えない知人ともっと話したいという気持ちが勝って誘ってみた。

私の存在は語学留学をしに行く彼女の邪魔になるかもしれない。断られる覚悟をしていたが、彼女は快諾してくれた。かくして、2019年11月にパリへ10日間、行くことが決まったのだ。

日本とフランスでやり取りをしていると「宿代が勿体ないからホームステイ先においでよ」との優しい心遣いにより、ホテル泊ではなくパリの一般家庭に宿泊することが決定。もちろん、ステイ先のホストの承諾もあってのことだ。

知らない日本人が家を出入りすることを許してくれたホストにも、私のために交渉してくれた彼女にも、遠く離れた日本から届かないとは知っていながらも感謝の念を、そして彼女にメッセージを送った。

せっかくパリの一般家庭で過ごせるならば、と今回のパリ旅行のテーマを「暮らすように旅をする」に決めた。彼女が語学学校に行っている間は、周辺地域を散歩したり、カフェに入ってライターの仕事をしたり、とにかく現地で生活しているような過ごし方をすることにしたのだ。

いざ、パリに行って驚いたのは喫煙率の高さ。

フランスは屋内での喫煙を法律で禁止しているけれど、その分、歩きタバコがとにかく多い!パリの中心部ともなれば道路に設置されたゴミ箱には、歩きタバコをしている人向けに火消しまで付いているのだ。

なんというタバコ天国。喫煙者である私にとってはありがたいサービスだな、なんて思いながら周りの人と同じようにタバコを吸っては吐いてを繰り返し、颯爽と街を練り歩く。

揺れる紫煙を気にもとめずに歩いていたのは、花の都であり中世ヨーロッパの雰囲気漂うパリ。大好きなファッション雑誌に出てくるパリジェンヌのようになりたい、と無謀だとは思いながらもなり切るよう努めた。

とにかく周りに馴染むように煙を漂わせながら歩き、いつまでも残しておきたい景色を見つけてはカメラを構え写真に収める。観光客の雰囲気を出したくないと思って撮影は控えめにしていたけれど、高校生のころから憧れていたパリに、今、いるのだと考えると自分を抑えることができなかった。

街を練り歩くことに疲れては、喫煙可能なカフェのテラスに腰をかける日々。覚えたての拙いフランス語でグラスワインを頼む。観光地周辺のカフェではフランス語が不慣れな客に慣れているのか笑顔を崩さず注文を受け、1本離れた道のカフェではフランス語が覚束ない日本人に怪訝な表情を隠さずに接客をする。

観光客向けのカフェと、地元民向けのカフェ。それぞれのカフェの対比に苦笑いを浮かべながら、リュックに入れてきたMacを開き、いかにも仕事ができる風なキャリアウーマンよろしくキードードを打ち込む。

覚えたての拙いフランス語で頼んだグラスワインを脇におき、タバコの紫煙を漂わせながら、仕事をする自分に酔っていたのだ。

暮らすように旅をするとなったら、欠かせないのはスーパー。

現地の人が普段どのような食事をしているのか見えてきて、さらにチーズの量り売りや日本では高いワインが低価格で販売されているのを見て、「ここはフランスなのだな」と思わずにはいられない。

補充されていない商品棚を見ては、仕事に対する捉え方が日本と異なることもボンヤリと見てくる。このルーズさがなんだか心地よく感じる始末だ。

パリで過ごしている間は、約500円のワインを1本とパテ、ブルーチーズをスーパーで購入し、ホームステイ先の近くにあるパン屋でバゲットを購入する日々。

1回だけスーパーのバゲットを購入したけれど、パン屋に比べると固さがあり、噛みちぎるのが大変。バターをたっぷり使ったパンは体型を気にする女性にとって天敵のようでありながら、やはり欠かせないのだ。

バゲットの上にパテやブルーチーズを乗せると、100倍もの相乗効果を生み出す。素朴な味わいのバケットに、塩味のきいた食材は相性が抜群。

側からみれば、牛肉を使ったコース料理に比べて質素な夕食のように見えるけれども、日本でコース料理を食べたような満足感で満たされるから不思議である。

きっと音楽を流しながら、ワイングラスを傾けてはおしゃべりに花を咲かせ、1日の終わりを迎えるのがなんとも心地よいからなのかもしれない。日本のようにカラオケもボーリングもないパリでは、おしゃべりが何よりも楽しい友人との時間らしい。

「暮らすように旅をする」というテーマを掲げている私にとって、ぴったりな夜の過ごし方だ。

ホテルに併設されているレストランで食事を取るのもきっと楽しいのかもしれないが、現地のスーパーやパン屋で購入した食材で夕食を取るのも、また違った面白さがある。

10日間、フランスに滞在していて驚いたことはもう1つある。それは、ボジョレーヌーボーをフランス人は飲まないということ。

11月の第3木曜日ともなれば、日本のスーパーにはボジョレーヌーボーが自信満々に陳列される。新鮮なワインは、渋みや酸味が強くない分ワインの味に複雑さがないのだが、軽やかさが存分に残っており、ワイン単体で飲む私にはぴったり。

だからこそ、11月の2週目あたりからソワソワして、今年はどんなワインを飲もうのかなと駅構内のスーパーの前を通り過ぎるたびに考える。

2019年はせっかくフランスにいるのだから、何本か飲みたいと思っていたのだけど、知人に「フランス人は、ボジョレーヌーボーを飲まないよ」と言われびっくり。日本であれほど大々的に販売されているのに、ワインの原産国では飲まないのか、と戦慄した。

しかし、街を歩いていれば、カフェの中にはボジョレーヌーボーを飲みながら談笑している貴婦人がいるではないか。フランス人が飲まないというのは、オーバーな物言いだたのかもしれない。そう考えながら、「ボジョレー飲んでいる人いるね」なんて話かけると、「フランス語ではないから、あの人たちは観光客だね」と言い切られてしまう。

やはり、フランス人はボジョレーヌーボーを飲まないのか。少しガッカリした反面、本当のフランスを知った気分になり、なぜだか足下が軽くなった気がした。